前世紀遺跡探訪<80s-バブル終焉>

80年代~バブル文化圏終焉(実質的なバブル崩壊は91年だが、バブルの延長的な空気が即終了したわけではないので90年代前半までとりあえずバブル文化圏と仮定しとく)の音楽や音楽をとりまく事象について、あれこれと。

LINDBERG - 今すぐ Kiss Me (1990)

ニュース等で、「人気ロックバンドの…」という枕詞が出るたびに「えっ誰?誰?誰が何したの?」とワクテカ状態でニュースに注目してるのに、大概「誰それ知らんわ」という人ばかり報道されてガックリしている人として最低なわたくし。
「人気ロックバンド」と「そうでないJ-POPバンド」の判断基準がわかりません。

てか、「人気ロックバンド」という枕詞も謎だが、もっとわからないのはじつは「伝説のロックバンド」だったりする。
リンドバーグ再結成で「あの伝説のロックバンド、リンドバーグが…」という枕詞がマスコミに飛び交った時には耳を疑った。いやマジで。「伝説」って言葉もずいぶん安くなったもんだと思って。
「バブル期にそこそこ売れたJ-POPバンド」じゃダメなのかよ。



でん‐せつ【伝説】
[名](スル)

1 ある時、特定の場所において起きたと信じられ語り伝えられてきた話。英雄伝説・地名伝説など。言い伝え。「浦島―」

2 言い伝えること。言い伝えられること。また、うわさ。風聞。



「あの伝説の」というからには語り継がれる存在ということだよな。となると、よほど売れたか、よほどインパクトがあったか、よほど影響力があったか、もしくは後世に語り継がれるようなトンデモな逸話の持ち主か。
功績よりも逸話に事欠かないほうがある意味「伝説」だというのなら、日本ロック界におけるそういう「伝説」は、「X JAPAN」と「ハナタラシ」が全部持ってった。興味があったらWikiってみるといいすよ。「ハナタラシ」は特に強烈だから。
ハナタラシ - Wikipedia

いやしかし、実はリンドバーグも、ステージでギター燃やしたりギターを歯で弾いたり全身の血を入れ替えたりステージでウンコ食べたり教会に放火したりするような「ロック伝説」を持つバンドなのかもしれませんね。 単に私が知らないだけで。
リンドバーグも、ステージでコウモリ食い千切ったりチェインソーふりまわしたりライブハウス破壊したり会場にダイナマイト持ち込んだり蟻を鼻から一気に吸い込んだりカレーが辛くて帰ったりしてるのかもしれない。単に私が知らないだけで。
 
芸能ニュースで使用される枕詞「伝説の」は、スポーツ業界の「美人」や、犯罪被害者の「美人」と同義語なのはわかるんですがね。
リンドバーグは誰も語り継いでないのにマスコミが「伝説の」って枕詞をつけるのが引っかかるんですよ。あまり意味のない枕詞だってコトも一応わかっちゃいるんですがね。
 
 
 


LINDBERGリンドバーグ)は、バブル期にそこそこ売れた「人気ロックバンド」である。
結成は1988年、ボーカルの渡瀬マキは元アイドル。
はいここ重要。このバンドを解析するにあたっての最重要キーワードは「1988年結成、元アイドルがロックミュージシャンに転身」である。このキーワードから何が浮かび上がるかというと「バンドブーム」である。
「バンドブーム」という補助線を引かないと、このバンドの意味を見間違う。
 
(実は日本でバンドブームと呼ばれているものは幾つかあるのだが、ここでは1980年代中盤からバブル終焉までの時代を指して使用する。)
 
1985年、おニャン子クラブの出現によって80年代アイドルブームに終止符が打たれ、「アイドル冬の時代」が始まった。
秋元康にあれだけ大々的なアイドル価格破壊・アイドル焦土作戦をやられちゃあねえ、おニャン子ブームが去ったあとの芸能界は、「フツーのアイドルをフツーに売ろうとしても全然売れません」って状況になっちゃうわな。そこにタイミングよく「バンドブーム」がやってきたのである。80年代中盤以降、「金の儲かるエンターティンメント」としてロックバンドがメジャーに次々と進出した。BOØWYレベッカ等の台頭から始まり、1985年ごろからインディーズブーム(当時は単に自主制作盤といわれていたが、雑誌「宝島」とNHKがインディーズブームを煽って加速)が勃興、それにホコ天バンドブームが合流し、1987年ごろには「バンド」はかなり若者カルチャーとしてメジャーな存在になっていた。そこに決定打イカ天ブーム(1989年)が加わり、「バンド」は一大ムーブメントとなった。まさに「ブーム」。
いやもう、猫も杓子もバンド、バンド。バンドブームピーク時の1991年には510組もメジャーデビューしたんだそうだ。もはやバンドだったらなんでもいい状態だった。こんだけ「ロックバンドがメジャーデビュー」の敷居が下がった時代はあるまいよ。思えば異常な時代だった。
で、そんな背景の中から「フツーにアイドルやってても売れないので、アイドルをボーカルに据えてロックバンドとして売り出そう」という流れが生まれてきたのである。「パッケージを変えたら、以前パッとしなかった商品が売れた」ってのも、よくある話ですね。80年代後半の日本音楽業界ではそのパッケージが「ロックバンド」だったわけです。
リンドバーグだけでなく、当時いろんな物件が「ロックバンド」化しましたよ。ははは。菊池桃子最大の黒歴史ロックバンド「ラ・ムー」がデビューしたりとか、本田美奈子がロックバンド「minako with wild cats」を結成したりとか。
リンドバーグは、「バンドブームの渦中にアイドルをロックのパッケージで売り出す」ビジネスモデルの成功例です。
「伝説の」という枕詞はどうかと思うが、当時、確かに結構売れた。
 
 
 
森脇真末味の「おんなのこ物語」に「学園紛争やヒッピー・ムーブメントが終わりをつげ、ロックだけが70年代に生き残った。ロックはメッセージを失い、金のもうかるエンタテイメントとなった」というNHKの音楽ドキュメンタリー番組からの一説が引用されていたが、これを初めて読んだ頃は(1981年ごろ)日本ではロックはマイナーでアングラ、金を産み出すコンテンツとは無縁のところにいた。NHKからの引用は、当時の海外ロックビジネスの状況のことらしいが、ロックって当時の日本では決して商業用コンテンツじゃなかったからさあ。当時の音楽業界のメインストリームはアイドル、演歌、ニューミュージックだったもんで。それ全部ひっくるめて「歌謡曲」って言ってたけど。
 

森脇真末味「おんなのこ物語」
 
 
このマンガではこのあと、「経済大国日本には商品化できないモノなんて無いのかも」と台詞が続く。
「バンドブーム」によって日本のロックがホントに商品化してしまったのは、この数年後のことだ。
 
わたしは「ロックとはカウンターカルチャーであり、反骨精神であり、メッセージであり、生き様であり、イデオロギーであるべきだ」「セックス・ドラッグ・ロックンロール!」とは、実はぜんっぜん思ってないような人間だ。
軽佻浮薄な80年代に青春送ったせいか、どうも照れくさいんだよ。「ロックンロール・スピリッツ!」「俺たちにはロックがある!」みたいな過剰なロックに対する信仰心がね。
70年代に青春送ったひとは、このへんすごい思い入れあるよな、ロックに対して。もう「宗教」に近いような。
中島らものエッセイ読んでても、一番「ついてけねー」と思うのはロックという宗教に対する、あの世代の人々の信仰心だったりする。
まあつまり、わたしは「ロック」なんて別に、単なる「音楽嗜好・音楽ジャンルの1種」であり、エンタメでいんじゃね?「ロックは生き様」とか、なんかこっ恥ずかしいんだが。程度の思い入れしか持たないような、しょーもない人間なわけなのですが。

そんなわたしを以ってしても「猫も杓子もバンドブーム」には驚愕と混乱と戸惑いがあったよ。
だって「バンドブーム」によって「ロックバンド」というものが「商業用コンテンツ」として初めて日本の音楽業界ビジネスモデルとして成立したわけじゃん。
んで、ロックをロックたらしめている「アク」を抜かなきゃ商業用音楽として成り立たないし、メジャーで売れないってこともよっくわかってたつもりなんだがさ。
ねーねー、確かに演ってる音楽は、形式としては「ロック」だよ。演奏してる人たちの服装も、様式としては「ロック」だよね。
でもさ〜、ここまでアク抜いちゃっていいの〜?
ここまで健全で、健康で、人畜無害で、元気いっぱいで、明るくていいの〜?
ロックってもっと不健全で、毒があって、反体制的で反社会的なものじゃなかったっけか〜って、わたしでさえ戸惑った。
バンドブームって「ロック」からアクを抜いただけでなく「70年代的信仰」まで取っ払ってったな。
商品化して形骸化してペラッペラにされて、「歌謡曲」に吸収されて「J-POP」と名を変えた。
でも、この一連の流れのおかげで「日本でロックやってメシが食えるようになった」んだから、悪いことばっかでもないわけなんだが。
 
 

LINDBERG - 今すぐ Kiss Me (1990)

 
け、健全だ…
健全で健康的で人畜無害で明るくて元気いっぱいで眩暈がする。
眩しすぎて意識が遠のくよ。
いやあ、ロックも「日の当たる場所」が似合う音楽になったもんですわ。
実態が「ロックバンドに擬態したアイドル歌謡曲」であっても本人達が「ロックバンド」とアイデンティファイしてんだから、まあ、ロックですわな。
これってトレンディドラマ「世界で一番君が好き!」主題歌だったんだよな。
思えばトレンディドラマっつうのも異様な世界だった。設定やストーリーは既にSF。あの三上博史によくもまああんな役をやらせたもんだ。三上博史って寺山修司の秘蔵っ子だからね。デビュー作が「草迷宮」という、いわばアングラエリート。それがドラマのOPで浅野温子とキスしまくり。あくまでも軽く明るくおされにコミカルに。お、恐ろしい………
三上博史って、どー考えてもそっちの世界の人じゃないのに。
ドラマやCMのタイアップでないと音楽が売れないという状況が始まったのも、思えばこの頃。
音楽番組がTVから消えてしまった時期なので、どんな名曲でもどんな駄曲でもドラマやCMとタイアップしないと人々の耳に届かなかった。
 
 
「バンドブーム」も「トレンディドラマ」もバブル終焉とほぼ同時に終了。
トレンディドラマは徐々に終息していった印象があるが、バンドブームはホントにバブル終焉と同時にピタッと終わった。「いったい何だったんだ、あのバンドブームは」というぐらい、あっさりと終わった。瞬間最大風速が凄いと失速すんのも速いな。
 
リンドバーグはピークは90年代初頭だが、2002年まで活動してたんだな。
バンドブームを背景にして出てきた人たちだが、「バンドブームの立役者」ではなかったので、そこまで長く続いたのかもしれない。
いずれにしても、バンドブーム終了後のあの過酷なリストラの嵐の中を生き抜いてきたのはすげーとしかいいようがない。
「伝説の」とは言い難いが(しつこい)。


 

 

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