前世紀遺跡探訪<80s-バブル終焉>

80年代~バブル文化圏終焉(実質的なバブル崩壊は91年だが、バブルの延長的な空気が即終了したわけではないので90年代前半までとりあえずバブル文化圏と仮定しとく)の音楽や音楽をとりまく事象について、あれこれと。

スターボー - ハートブレイク太陽族(1982)

わりとB級アイドルという存在が好きだ。
アイドルというのは「多くのヒトに愛される要素」を集めて売り出す商品のはず。それで、売れなかったってことは「ヒトに愛される要素」を売り出す側が読み間違えてたってことで。どこでどう間違えたのかを考えるとすごく興味深いのである。

80年代前半は飛沫アイドルの時代でもあった。
どっかで何かを読み間違えたアイドルが大量に輩出された。
ソフトクリーム、きゃんきゃん、キララとウララセイントフォー、麻生真美子&キャプテン、ポピンズ…
セイントフォーは何がいけなかったんだろうなあ。
40億円かけてプロジェクト組んで鳴り物入りでデビューしたがブレイクせずに終わった4人組アイドルグループ。
今動画見ると、かなり身体能力の高い子を集めてる。
時代を先どってメガネっ娘が居たとか、プロデュースが橋幸夫だったとか、4人のうち3人は脱いだとか、声優の岩尾潤子が在籍してたとか、漫画家の島本和彦がすげーセイントフォー好きでやたら作中に出してたとか、結構ネタが尽きない。
Wikipediaを読んだら“移籍をめぐるトラブルに巻き込まれて芸能活動休止に”と書いてあったが、それだけがブレイクできなかった原因じゃあるまい。

「売れる・売れない」の分岐点はどこなのだろう。
プロでも読み間違うのだから、素人にわかるはずもない。

わかるはずもないのだが、一目見た瞬間に「こらあかん」と素人でもわかる物件が希に存在する。
その姿を目撃した誰もを一瞬にして「こらあかん」とエセ関西人化させてしまった80年代初頭を飾った悲劇のアイドル、それが「スターボー」である。


スターボー
1982年デビュー。活動期間は2年間。
デビュー当初の正式名称は宇宙三銃士スターボー
太陽系第10惑星「スターボー」から脱出し、地球に「A・I(愛)」を伝えるためにやってきた性別不明の宇宙人3人組という設定で売り出された。
私はたまたまスターボーの「夜のヒットスタジオ」初登場をリアルタイムで見ていたのであるが。
彼女ら(彼ら)が登場したその瞬間に、視神経を通して「こらあかん」という情報が脳に伝達された。
ぼけ〜っとテレビ見ていただけの昭和のイナカモンにも瞬時にわかるぐらいキツかった。
デビュー曲「ハートブレイク太陽族」の作詞・作曲が松本隆細野晴臣というヒットメーカーだったにも関わらず、これは絶対売れませんというムードを醸し出していたのは、やっぱり「性別不明の宇宙人」という設定に無理があったとしか。
海千山千の芸能界のオトナ達が知恵絞って考えたんだろうに、どうしてこういうあからさまな読み間違いが起こるのかが謎でしょうがない。



で、どうして読み間違ったのかを考えてみたのであるが。

彼女ら(彼ら)のデビューした82年は「花の82年組」と称されるほどアイドル供給過剰の年であった。聖子カットのぶりぶり路線でフツーにやってても頭一つ抜きん出ることは難しいので、キャラクター設定を練りに練って、その中で差別化を図ったのだということが容易に考えられる。
なんで「性別不明」という設定にしたのかというと、「中性的」「ボーイッシュ」という要素を読み間違ったとしか思えない。
おそらく、このひとたちは当時のアイドルの中では比較的身長が高いほうだったのではないだろうか。当時は高身長の女子をアイドルとして売り出そうとすると「ボーイッシュ」を前面に出すしか手段がなかったのではないかと思う。
秋里和国の少女マンガ「花のO-ENステップ」が発表されたのが1984年だが、ヒロインの身長は164cm程度だったのにも関わらず、「ボーイッシュな存在で、高身長ゆえに男子と間違われる」という設定だった。現代だったら164cmは十分女子として「かわいい」の範疇に入るのだが、80年代中盤では164cmはまだ「ボーイッシュ」「かっこいい」で咀嚼されていたのである。高身長女子に対する世間の意識が変化したのは、おそらく90年代初頭の「モデルのアイドル化」からだろう。宮沢りえ観月ありさ。165cm以上身長があっても「カワイイ」で咀嚼されたのはこの世代から。(「モデルのタレント化」はおそらく80年代後期。設楽りさ子あたりから。)

で、もう1つの問題である「宇宙人」。
ていうかこれが最大の元凶なんじゃないのか「こらあかん」の。
なんで宇宙人設定にしちゃったのか。
…う〜ん、おそらく「テクノ」が原因の1つなんじゃないかなあ。
「ハートブレイク太陽族」って、ジャンル的にはテクノ歌謡なんである。作曲・細野晴臣だし。
YMO全盛期だったんで、歌謡曲にテクノの要素を取り入れるのが流行ったんですよ、当時。
YMOに「コズミック・サーフィン」という曲があるせいか、中学生テクノユニット「コズミック・インベンション」のせいか、とにかく「テクノ=電子音楽=コンピュータ=近未来=SF=宇宙」というミラクルな発想の飛躍がそこにあったと考えられる。んで「宇宙人」になったと。たぶん。
しかし。小倉優子の「こりん星」がネタとして消費されたのは、00年代であればこそ。
80年代初頭に宇宙人設定をネタとして消費すんのは無謀だ。まだ、事務所が作った公式アイドルプロフィール(別名・大本営発表)を鵜呑みにするしかなかった時代だもん。マジで宇宙人として消費しろってことか。いやどっから見てもネタだろう、って当時の人間にもわかるんだが、ネタをネタとして面白がれるほど、まだ当時の我々地球人はスレてなかったのであった。というわけで皆スターボーをどう咀嚼していいのかわかんなかったのである。事務所の計画としては「カッコイイ」で咀嚼されるはずだったんだろうなあ。
当然、売れなかったですよ。レコード売り上げが7千枚(オリコン最高98位)だって。
そらそうだろうよ。

スターボー - ハートブレイク太陽族(1982)



実はスターボーの本当の悲劇はここから。
性別不明の宇宙人路線がダメだったので、王道アイドル路線に路線変更したのである。
聖子カットのぶりぶり衣装で出てきて、「こんにちは!スターボーでぇす」。
今度は「性別不明の宇宙人」から「地球人の普通の女の子」に帰化したって設定。
いや、これもうっかりリアルタイムで歌番組で見ちゃって。
なんかもう「こらあかん」とリフレインが叫んでる状態で。
えっと。性別不明の宇宙人時代のことは黒歴史として「なかったこと」として片付け、まったく新しいグループ名をつけて別人として売り出すことはできなかったんですかねえ?
現代だったら無理ですよ、ネットがあるから。どんなに隠しても黒歴史は暴かれて白日の下に晒される。
でも80年代初頭だったらさあ。まだ秋元康が「ギミックをあえて公開」の戦略をとる前の時代だったらさあ。「なかったこと」にすることは可能じゃん。視聴者もスレてなかったし。そうしてやればよかったのに。
なんか、スターボーの3人は小泉今日子とは全然違った意味で業界人のいいオモチャにされちゃった感じだ。
これらのキャラ設定、かなりこの3人の人生を狂わせたと思う。
「芸能界でアイドルデビュー」ということに、夢も希望もあっただろうに。
気の毒でならない。




スターボーのDNA継承」現象もあるにはある。
1996年。「美少女戦士セーラームーン」シリーズの最終シリーズアニメ「セーラースターズ」。
既にシリーズも5年目、話を引っ張るだけ引っ張ったため、大風呂敷が拡がりすぎて畳めなくなった問題作。
これがね、性別不明の宇宙人3人組アイドルグループが出てくるんですよ。
スリーライツっていうんですが。
普段は男性体で「スリーライツ」っていうアイドル歌手やってんですが、変身時は女性体の「セーラースターライツ」に性転換する(原作では男装の女性)という。

スターボーのDNAがここに生きてたかと思いました。
DNAの継承はここで止まってますがね。
もう出てこんだろう。
 

 

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