前世紀遺跡探訪<80s-バブル終焉>

80年代~バブル文化圏終焉(実質的なバブル崩壊は91年だが、バブルの延長的な空気が即終了したわけではないので90年代前半までとりあえずバブル文化圏と仮定しとく)の音楽や音楽をとりまく事象について、あれこれと。

男闘呼組 - ロックよ、静かに流れよ (1988)

お若い方はご存知ないだろうが、男闘呼組というのは80年代中盤にジャニーズ事務所から「ロックバンド」としてデビューしたエアバンドのことである。 エアバンドとはライブ中にピックを投げてもピッキング音が出るという特殊テクニックを駆使するバンドのことを指す。単にピックいっぱい持ってただけかもしれないが。まあいいや。
 
4人組だがドラマーが居ない。初期にはドラマーも居たが大人の事情でキーボードに転向したのだ。
そらそうです。ドラム担当だと前からのアングルでは顔が見えませんからネ。

ギター2人・ベース1人・キーボード1人で編成されていたが、キーボードの位置が、通常のロックバンドではありえんぐらい前だった。
そらそうです。キーボードだからって後ろにひっこんでたら前からのアングルで顔が見えませんからネ。




 


写真上の左から、前田耕陽成田昭次岡本健一高橋一也 
ロックっつうか、ヤンキーくせえなあ。特に下の写真。
実際ヤンキー上がりだったんだろうけど。
 
バンドブームに先駆けた1984年にその前身バンド「東京」が結成されたというのは、ジャニーさんの先見の明かもしれない。
まあ「ロックバンド」というのは「バック転ができない」ことの免罪符として非常に有効だったというのもあるのだが。
しかし「東京」って。
何の捻りも無いのに斬新過ぎるネーミングセンスに脳味噌キャパオーバー。
これがバンド名として成立するなら「京都」や「大阪」もアリだろう。
あっ、命名者はもちろんジャニーさんです。
命名にあたって3分も考えたかどうか非常に怪しい。
 
作曲がMark Davisとかいう謎の外人で、一体どこの外人かと思ったら実は馬飼野康二の別名だった。
まだまだ洋楽がエライ時代だったので、洋楽に擬態したと思われる。
その実体は歌謡曲ってとこが実に80年代テイスト。
つかJ-POP界は90年代も00年代も「その実体は歌謡曲」だったりするが、まあ日本の音楽業界ってのは、そこが節操無くていいと思う。いやホントに。歌謡曲という枠は窮屈なようで案外窮屈ではない。あらゆるジャンルを貪欲に飲み込んで咀嚼し拡大していく日本のポピュラー音楽の総称だからだ。
 
男闘呼組の皆さんが「ジャニーズ事務所ってことでナメられてるけど俺達はそこらのロックバンドよりロックだ」「ビートルズなんてクズだ」などと当時のサブカル雑誌「宝島」で、まるでお塩語録みたいなインタビューに答えていたのは今でも忘れられない。
大人の事情がどうであれ、彼らには「ロック」というものに対してものすごく強い気負いがあったのだ。
 

服はBL∀CKの雑誌通販あたりで買え。間違ってもセディショナリーズなんぞ着るな。マーチンも履くな。てめえらごときがヴィヴィアンとか超ムカツクんですけど。ピストルズのガーゼシャツとか着ないでくれる?つか、頭のバンダナ取れよ。と当時は色々思ったものだが、今となってはもうどうでもいい。
バンドブーム期に雨後の筍のようにうじゃうじゃと沸いて出てきた「青春ロック」「優しさロック」の面々よりは、男闘呼組のそうした気負いの方が寧ろロックというものの本質に近いのではないかと思うからだ。肩の力の入り方が微笑ましいっつうかね。今だからこそ、ではあるが。




あ〜ちなみに後期はエアバンドじゃなかったそうですよ。
しかしまあ「ロックとアイドル性の両立は難しい」という80年代の鉄則通り、音楽性を強化してロック色を強めると、徐々にTV画面への露出が減っていくことになるわけで。
エアバンドだった頃のほうが人気あったってのが皮肉である。
ただし人気が無くなって解散したわけではない。
1993年に素行不良で高橋一也がジャニーズを追われたため、無期限活動停止になったというのが実情。
おそらくまだ「解散」はしてないんじゃないかな。
実質的には「解散」したようなものだけど。
事務所バラバラだし。逮捕者出たし。
 
 

1988年に公開された男闘呼組の主演映画のタイトルは「ロックよ、静かに流れよ」。主題歌も同名。
キャッチコピーは

“淋しい時、楽しい時、
俺たちにはダチ・Friendsがいて
ROCKがあった。”


「ROCKがあった」かあ。
なんつーかね、 ある世代以上の人々にとっては「ロック」ってイデオロギーや宗教に通じるほどの重みがあるじゃないすか。
男闘呼組の「ロックバンド宣言」にも、ものすごく強くそれを感じる。
「ロック」という言葉からメンタリティや生き様まで読み取ってほしいという彼らの切願が込められている。怨念と言ってもいい。「ロック」という言葉には、かつてはそれほどの神通力があった。
80年代は「ロック」という言葉に「音楽の1ジャンル」「若者に人気の音楽形態の1つ」という意味以上の力があった最後の時代だ。
メインストリームに対するカウンターカルチャーとしての存在意義を、まだ時代から求められていたのだ。
90年代にはクラブミュージック、ダンスミュージック系の席巻が世界的に始まって、「ロック」はどんどん衰退していく。
おそらく2012年現在、「音楽の1ジャンル」程度の意味しか与えられていないのではないかと思う。

男闘呼組の「ロックバンド宣言」も「ロックよ、静かに流れよ」もロックにまだ神通力が残っていた時代性の反映である。
今となっては非常に感慨深い。
 
 



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