前世紀遺跡探訪<80s-バブル終焉>

80年代~バブル文化圏終焉(実質的なバブル崩壊は91年だが、バブルの延長的な空気が即終了したわけではないので90年代前半までとりあえずバブル文化圏と仮定しとく)の音楽や音楽をとりまく事象について、あれこれと。

「ザ・ベストテン」に関する雑談

ザ・ベストテン」は1978年1月からTBS系列局で生放送されていた音楽ランキング番組。
終了したのは1989年9月。
番組スタートから、視聴率やシステムが軌道に乗るまで1,2年かかっているから、「80年代物件」と定義していいだろうと個人的に判断。
今この番組について語りたくなったのは、「ザ・ベストテン」のディレクター・プロデューサーを担当した山田修爾氏の著作を読了したから。

 

 
この本には
 
“ベストテンの集計方法は、リクエストのハガキ、レコードの売上、ラジオのランキング、有線放送のランキングの要素の重要性に応じて比率を算出して、その集計した数値を総合的に判断し得点化したもの”
 
と書いてあった。
番組開始時の配点比率は「レコード30:有線10:ラジオリクエスト20:はがきリクエスト40」の割合だったが、ファンによるハガキの組織票が横行したため、「1979年 レコード30:有線10:ラジオ30:はがき30」→「1981年 レコード45:有線10:ラジオ21.9:リクエスト23.1」→「1986年 レコード60:有線10:ラジオ10:リクエスト20」と、たびたび配点比率を変更している。
「ランキング形式の客観性の保持・集計にウソをつかないという番組方針で、組織票を排除するため、ハガキは同じ筆跡のものは除外する」と本には書いてあり、10名ほどのハガキ担当のアルバイトさんがかなり苦労していたようだ。なんせ毎週20万枚以上のリクエストハガキが届いていたそうだから。
 
ところで、Wikipediaの「親衛隊(アイドル)」の項目を見ると、なかなか興味深い事が書いてある。特に「支援活動」に注目。
 
 
親衛隊 (アイドル) - Wikipedia
 
 

リクエストはがき書き
当時のランキング番組『ザ・ベストテン』・『歌のトップテン』等へのリクエストはがきを組織票として大量に書き、一気に投函する。費用は所属事務所やレコード会社が負担する場合が多い。親衛隊が事務所公認の場合の活動である。同様の活動に有線ラジオ放送へのリクエスト電話も行っていた。
 
レコード買い
新曲発売時期にオリコン加盟のレコード店を数多く回り、組織的に購入しランキング順位を上げる。こちらも費用は所属事務所やレコード会社が負担する。
 
販売
コンサート会場、イベント会場では事務所側から依頼され、コンサートパンフやグッズの販売等に 親衛隊の隊員が使われたケースもある。
 
事務所公認・新人支援
1980年代には親衛隊を事務所公認とする芸能プロダクションも増えだし、これらの活動の見返りとして、タレントとのお茶会や食事会等を定期的に行うところや、コンサート等で親衛隊用のまとまった席を確保したり、特別なケースだと親衛隊獲得のために現金を差し出す事務所まで出てきた。特に新人アイドルの場合、これらの支援活動が強力なプロモーションであると認識され、事務所側としては親衛隊の応援・組織的動員力は喉から手が出るほど必要な状況であった。

 
 

ははは。これ読むと「ランキング形式の客観性」なんて「絵に描いたモチ」だということがわかりますね。
てか、親衛隊による組織票なんて可愛いもんだ。
「業者による組織票」ってのが実際にあったから。
ソースは自分自身。
わたし「業者による組織票」のアルバイトっつうのをやったことがあるんです。
たしか1985年か1986年か1987年。もう覚えてない。
「業者」とは「芸能事務所・もしくは所属レコード会社の下請け」。「下請けの下請け」か「下請けの下請けの下請け」かもしれない。
いや別にわたしに怪しいツテやコネがあったわけではなく。
普通に当時の求人誌に「簡単なお仕事・名簿作成」って掲載されてたんですよ。でも見るからに怪しさ満載な求人広告で。
つい応募しちゃったわけです。
「身の危険を感じない程度に怪しい物件にはとりあえず首を突っ込む」という自分の性格が恨めしい。
面接に行ったら名簿とハガキの束を出されましてですね。
ザ・ベストテン」宛に某アイドル歌手のリクエストハガキを書け、と。
差出人住所はこの名簿からどんどん使え。
筆跡を変えろ。
筆跡が変えられない場合は字の大きさを変えろ。
ネタが尽きたら字の色を変えろ。
それでもバリエーションが尽きたらレイアウトを変えろ。
とにかく組織票とバレないように、全部書式を変えて書け。
印刷はダメ、必ず手書きで。
イラストは描かなくてもよい(時間がかかるから)、メッセージは適当でいい。
でも、決して雑になってはいけない。
最初は大変だがコツをつかめば簡単である。
報酬は出来高制で、500枚仕上げたら10000円、800枚仕上げたら20000円…と枚数に応じて昇給するが、500枚以下で挫折したら報酬は支払わない。

というもの。
まあとりあえずやってみようか。ここまでウラ話聞いちゃうとタダでは帰れなそうだし。と、大量のハガキと名簿もらって帰って来たんですが。
ごめんコツ掴む前に挫折したわ。
手ぇ痛え。
ただ字を書いてるだけの行為でこんなに腕が痛くなるとは。
つうか「適当でいいが雑ではいけない」ってかなり難しいぞ。
そんでレイアウト変えろって言われてもテンプレがないから結局全部自分でレイアウト考えろって話じゃん。
30枚ほど書いたところで、わたしはペンを置き、冷静に考えた。
いや、1枚書いたあたりで「これヤバくね?」と思ったことは思ったんですが。
このまま500枚書いたらおそらく腱鞘炎になるだろう。
完治までに整形外科に数回通うことになるのでは、10000円ごとき報酬をもらっても全くワリが合わん。
つか、時給幾らだよ。30枚書くまでにどれだけ時間を費やしたかちょっとは脳味噌使って計算するんだ自分。
…時給換算約200円じゃん。うわあ。
世間はバブル前夜。
可愛い服着れて、美味しい思いができて、ついでにステキ男子とバイトを通じてお知り合いになれる可能性もあるような、高い報酬のアルバイトなどナンボでも転がってるのに、一体自分はなんでこんなコストパフォーマンスの悪い、変な内職をしとるのかと。全くもってワリにあわん。
引き受ける前に気付けよアホかって話ですが。
自業自得なんですが。
翌日、結局30枚だけ業者にハガキ渡して帰ってきました。残りの白紙ハガキと名簿もそのまま返却。
タダ働きですよ。いや、実質マイナスか。交通費がかかってる。
つか、この内職やった人間は殆ど全員タダ働きだったんじゃないすかね。
報酬もらう前に効率の悪さと手の痛さで挫折するから。
業者丸儲け。
 
 
というわけでランキング番組の「ランキング形式の客観性」なんてほぼ無意味。
あれはレコード(CD)売るためのパブリシティです。
実際の人気のバロメーターにはなりません。ハガキにしろ、CD出荷枚数にしろ、有線リクエストにしろ、ある程度は操作可能だから(あくまでもある程度。どんなにテコ入れしてもダメだったケースもあるだろうし、小細工ナシでもランクインできるほどパワーのある歌手もいるだろう)。
ネットが無い時代ならではの、実に牧歌的な数字操作方法でしたがね。
が、ランキング番組というのはランキング形式が無意味だからこそ面白いのです。
レコード会社や芸能事務所がどういう商品をどういう路線で、どういう消費者に向けて、どれだけ力を入れて「売ろう」としているか、その方向性が透けて見えるという点でね。
だから、そういう意味でも現代の「国民的アイドルグループAKB48」は面白いわけです。
あれは人気投票=組織票・多重投票であることが大前提でしょ。80年代だったら地下でこそこそ行われていた裏工作(暗黙の了解とはいえ一応秘密裏)を公表することで成り立ってる。
秋元康お得意の「ギミックをあえて公開」「たしかに組織票ですがそれが何か」ってやり方。
 
 
 
あ、山田修爾氏の著作「ザ・ベストテン」はなかなか面白かったですよ。
番組制作者側は実に真摯な姿勢で「ザ・ベストテン」に関わっていたことがわかります。
それと、わたしが30枚ほどリクエストハガキ書いた某アイドル歌手はまだ芸能界で健在です。
そのひとももうアイドルではないし。
ザ・ベストテン」という番組も、件の業者も、もう無いし。
他の歌手も当時多かれ少なかれ似たようなことをしてたんだろうし。
もう書いても時効だよなあ、このネタ。
個人名は一応伏せるけど。

 

 

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