前世紀遺跡探訪<80s-バブル終焉>

80年代~バブル文化圏終焉(実質的なバブル崩壊は91年だが、バブルの延長的な空気が即終了したわけではないので90年代前半までとりあえずバブル文化圏と仮定しとく)の音楽や音楽をとりまく事象について、あれこれと。

とんねるず - 一気!(1984)

日本人には血液中のアルコールを肝臓で分解する酵素を持つ人と、持たない人がいる。
これは縄文人と渡来系弥生人の違いらしい。縄文人(古モンゴロイド)はアルコール分解酵素を持つが、弥生人(新モンゴロイド)にはアルコール分解酵素を持たないタイプがいる。遺伝子の突然変異らしいが。この「ALDH2不活性型AAタイプ」つう遺伝子を持つ人はどんなに訓練しても酒が飲めない。
 
酒が弱い。
酒が飲めない。
 

日本のタテ社会で生きていくにはこれは結構なハンデである。
いやわたし酒が飲めないもんで。マジこのハンデきっついぞ。酒が飲める奴には想像もつかないだろうが。
「俺の酒が飲めねーのか」つう圧力すげえし、周囲がテンション上がっても常にシラフ。場を盛り下げないよう気を遣わなきゃなんないし、呑み会後はドライバーにされるわ介抱役にされるわ、飲んでもいねーのに割り勘で「損した」感満載だわ、まったくいいことナッシング。
過去の醜態とか黒歴史とかがハンパじゃないわたしですが、あれ全部シラフですからね。シラフだと「酔ってたから覚えてない」が免罪符として機能しねーんだよ。おかげで記憶の隅に葬り去りたい黒歴史をすべて鮮明に覚えている。むかつくことこのうえなし。わたしも暴言吐きまくって醜態晒しまくって周囲に迷惑かけまくっても「えー酔ってたから覚えてなーい」の一言で全てを片付けて生きて行きたい。酒の席で無礼講とかハメはずすとかうらやましい超うらやましい。経験ねーよ1度もよう。
しかし、とりあえず女に生まれたので、男ほどは「下戸ゆえのハンデ」を負わされなくてすんでいる。これは本当に「ああ女でよかった」と感謝してることの1つだ。
この性格で、このキャラで、この体質で、男に生まれてたらマジ悲惨だったよ。腹ん中はどうであれ表面上は同調圧力に弱いからさー。男だったら大学の新歓コンパで一気強要されて急性アルコール中毒で死んでたんじゃないすかね、とっくに。死ぬまで行かなくてもビール一杯で昏倒してリバース、大学入学そうそう「マーライオン」と渾名をつけられ「もうアイツ誘うな」「見苦しい」と笑われ、それがきっかけでひきこもりになり社会不適応者に。そんなコースが目に浮かぶんですが。自分で自分が痛くて死にそう。非実在自分だけど。ああ本当に男に生まれなくて良かった。
 
 
 
最近はそこまでのアルコールハラスメントはないらしいという話も聞くが。
でもまだコンパの季節になると大学生の急性アルコール中毒死亡事故などが起こったりしてるので、アルコールハラスメントも健在なところでは健在なんだろうな。おそらく、主に体育会方面で。
で、そんな「イッキ飲み」という悪習が全国区に広がったのは、たぶん、この歌以降だろう。
 
 
 


 
とんねるず - 一気!(1984
 
  
 
これ以前も「イッキ飲み」という悪習はありましたがね。これでもっと広がりましたね。いやー、この曲でどんだけ急性アルコール中毒患者が出たかね。「めちゃイケ」の酒飲み対決で抗議殺到するような今の時代だったら放送禁止曲だよ。80年代っておおらかだよなあっつうか、「酒豪=男らしさの証明」みたいな迷信がまだ生きてたってことなんだろうなあ。単に遺伝子レベルでアルコール分解酵素持ってるかどうかってだけの話なのにさ。
 
この曲はとんねるずの歌手デビュー3作目。意外なことに3作目なんすよ。(ちなみにデビュー曲はアニメの主題歌「ピョン吉ロックンロール」)
「一気!」の作詞は秋元康
とんねるず秋元康は80年代のフジテレビの深夜番組「オールナイトフジ」が取り持つ縁。
「オールナイトフジ」は女子大生集めた素人参加型番組だか、これで女子大生ブームを作ったといわれており、いわば「夕やけニャンニャン」や「おニャン子クラブ」のプロトタイプである。現在に至るまでの「フジテレビらしい要素」を煮詰めたような、深夜の無法地帯だった。
とんねるずの当時の立ち位置は「高卒」「キレキャラ」。女子大生と高学歴の番組スタッフに囲まれた中で「あえて」高卒をアピールすることで支持を得て、キレて大暴れして予定調和を破壊する役回り。それと秋元康の「ギミックをあえて公開」「その通りですがそれが何か?」という手法とが結びついて生まれたコラボレーションである。
なんつうかね、ふざけてんですよ。お笑い芸人の歌なんだからコミックソングなのは当たり前としてもね、それとは別の意味でふざけてんですよ。
「こんなふざけた悪ノリ曲が売れたら面白い」という製作者側(秋元康)の姿勢が透けて見えるんですよ。
実はおニャン子もその延長線上にある。「こんなふざけた悪ノリ曲で、こんな素人集団がプロ歌手押しのけてオリコン1位とっちゃったら面白くね?」という。で、視聴者もその企てに乗っかった。
アレに似てるんだよなあ、田代祭。田代まさしが芸能人から犯罪者になってネットの一部で「ネ申」となった時、米紙「TIME」のパーソン・オブ・ザ・イヤーで田代まさしを1位にしようと2ちゃんねらーが大々的なネット投票を組織的に行ったという、あの田代祭に。媒体がネットで、スクリプトを使った多重投票やらかしたんで、方法論は違うんだけども。根底に流れる「悪ふざけ」「祭り」というスタンスに近いものがある。
違うのは田代砲を投入して不正投票やっても2ちゃんねらーに実利はないが(DoS攻撃受けた側としてはシャレにならん迷惑をこうむるが)、秋元康とフジテレビが提唱する「お祭り」に乗っかると、確実に利益を得る人が出るってことかな。
 
 
 

「フジテレビ」「秋元康」「とんねるず」。この3つは80年代中盤に見事にシンクロして、一時代と、新たなバラエティの雛形を築いた。
楽屋落ちをお笑いに投入したのはフジテレビ「オレたちひょうきん族」が最初だ。
台本があって、稽古を何度も何度もやって、お笑いをきっちりと作り込む「ドリフターズ」の芸風にトドメをさしたのがひょうきん族の「楽屋落ち」「内輪ネタ」。
それで下地ができたところに「オールナイトフジ」でとんねるずが出てきて徹底的に暴れまわって予定調和を破壊、ハプニングと過激さで支持を得て、秋元康が「ギミックをあえて公開」。これで「本来の番組進行の軌道をあえてズラす」「視聴者に、さも自分が番組に参加してるように錯覚させる」「事前説明ヌキの内輪ネタ・楽屋オチ・業界ネタ満載」「アナウンサーのタレント化」「予定調和を破壊するハプニング」「放送事故スレスレの危なさを楽しむ」「ステルスマーケティング自画自賛の嵐」というフジテレビというか、現在のバラエティ番組を成立させているカードが全て出揃ったのである。
 
 
 
 
これを褒めるのは非常に心苦しいんですがね。
面白かったよ。
当時、ホントにね。
あまり褒めたくないんだけどさ。でも、面白かったよ。
「オールナイトフジ」も「とんねるず」も「夕やけニャンニャン」も。
パワーがあった。エネルギッシュだった。
次に何が起こるか・何をしでかしてくれるかという期待を抱かせてくれた。
だがさ、「予定調和を破壊するハプニング」っていうのは、「揺るがない予定調和」や「定められた筋書き・あらかじめ敷かれたレール」が前提として存在しててくれないと成立しないんだよ。
ハプニングが当たり前になってしまうと、ハプニング自体が予定調和になってしまう。
人間って刺激に慣れるからね。「たぶんここでこんな風なハプニングが起こるんだろうなー」と事前に予測できるものは既にハプニングとはいわない。
 
 

 
とんねるずの功罪の「功」の部分はお笑い芸人に「カッコイイ」という価値を新たに付与したこと。お笑いのひとが女子の嬌声に出迎えられるようになったのはとんねるず以降だろう。「罪」の部分はスタッフいじりまくって事前説明なしにギョーカイ内輪ネタを一般層に浸透させ「CXの○○Pさあ、番宣見たけど、あれもうダメじゃん」などとしたり顔で語るようなイヤな素人(ええ、わたしのような)を大量輩出させたことと、体育会ノリを芸能界に持ち込んだことか。
石橋貴明本人が自分達の芸風について「部室芸」と言及してるけど。まあその通り。
体育会の部室で「面白い奴」が先輩・後輩を前に内輪だけでウケる身内芸を披露するというあのスタンス。あのままのスタンスで芸能界を四半世紀泳ぎきった。凄いといえば凄いが、今はもうそこがとんねるず最大のネックだと思う。
体育会というのは1年生は奴隷で2年生は平民、3年生は貴族である。「体育会3年生の部室芸」って見せられる方は苦しいものがあんだよな。とんねるずって3年生飛び越えてもうOBだからね。それも「甲子園で優勝した年のOB」くらいの位置。
これは苦しい。
非常に苦しい。
だから1,2年生集めて「おい、お前ら、なんか面白いことやれ。面白かったら笑ってやる」って命令してんのが今のとんねるずの立ち位置なんだろうけど。
これはこれで苦しい。
オールナイトフジの頃から四半世紀以上、変わらぬ芸風。
これは伝統芸や様式美として守っていかなきゃならんものじゃないだろう。
「部室芸」という「予定調和」はもう壊れてもいいと思う。
ドリフターズ「全員集合」がひょうきん族とフジテレビによってトドメを指されたように、部室芸にトドメをさしてくれる芸人が新たに出てきてくれたほうが美しい幕引きなんだがね。視聴率の低下で番組終了・自然消滅という終わり方をしそうで、それはそれでなんだか複雑な気分である。
後世に受け継がれてもそれはそれで困るんだけど。
 
 

 

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