前世紀遺跡探訪<80s-バブル終焉>

80年代~バブル文化圏終焉(実質的なバブル崩壊は91年だが、バブルの延長的な空気が即終了したわけではないので90年代前半までとりあえずバブル文化圏と仮定しとく)の音楽や音楽をとりまく事象について、あれこれと。

郷ひろみ - アメリカかぶれ (1990)

日本の歌謡界には「ラテン歌謡」というジャンルがある。
日本人はなぜか伝統的にラテン音楽が好きなのだ。伝統的といっても戦後のことなんだが。1950年代、ロカビリーやビートルズよりも先にラテン音楽が入ってきて、日本中に大流行したのである。マンボ、ルンバ、サンバ、チャチャチャ。当然の如くラテンの要素を取り入れた歌謡曲が大量輩出された。
美空ひばり「お祭りマンボ」、トニー谷「さいざんすマンボ」、高島忠夫「マンボ息子」、西郷輝彦「星のフラメンコ」、橋幸夫「恋のメキシカンロック」、黛ジュン「別れのサンバ」、森山加世子「白い蝶のサンバ」…いやホントにきりがないんだよ、ラテン歌謡を数え上げると。
もちろん現代でもまだラテン歌謡は健在。松平健マツケンサンバ」、タッキー&翼「Venus」、修二と彰青春アミーゴ」。
ラテン歌謡とはいえないがラテン風味な曲も大量にある。中森明菜「ミ・アモーレ」とか松本伊代太陽がいっぱい」とか。単にホイッスルやラテンのパーカッションをサンプリングしただけの曲だったら、もっと大量に存在してる。
ほんっとラテンが好きだな日本の歌謡界は。なんでだろ。日本人はシャイで感情表現が下手だといわれてるのに。ラテンだなんて過多・過剰・くどい・激しいノリがここまで好まれるとは。日本人にとってラテン音楽(っぽい雰囲気)の曲とは、「舶来モノの演歌」みたいな位置づけなんだろうか。
 
で、昭和のラテン歌謡の旗手は何と言っても郷ひろみなのであった。
つか、ラテン歌謡の第一人者として高く評価している。
顔が濃いのでラテンを演らせるのに合ってたんだろう。加えて声が特殊。あの声質だと、ラテンを歌ってもくどくも激しくもならない。ひたすら軽く明るい。「誘われてフラメンコ」「お嫁サンバ」「セクシー・ユー」。樹木希林とのデュエット曲「林檎殺人事件」もラテン歌謡だったな。
あの声質でラテン歌謡歌うと歌詞の意味まで変わってくるよな。「無意味」という意味に変わる。まあ昭和のラテン歌謡なんてもともと歌詞に意味なんて無いっちゃあ無いんだけど。でも尾崎紀世彦松崎しげるのような、顔も濃いが声質も濃いひとにラテン歌謡を歌われたら、本来特に意味が無いはずの歌詞にまで意味が生じてくんじゃん。ねばっこくてあぶらっこい意味が。郷ひろみにはそれがないから面白いのであった。
 
機械的で無機質で何を歌っても明るくて軽い。なのに過剰で過多。歌詞の意味を無に帰する特殊な声質とキャラクターの持ち主。このひとには意味の無いことを歌わせれば歌わせるほど面白い。
  
 

 
郷ひろみ - 哀愁のカサブランカ(1982)
 
 
郷ひろみというひとの芸能界における位置が変わったのがこの「哀愁のカサブランカ」(1982)。
いや、やっぱりラテン歌謡なんだけどね。
ラテン歌謡なんだけど、この歌で郷ひろみは「ランキング番組出演拒否宣言」をした。
「他人に自分の歌のランク付けされるのは賛成しかねる」という理由で、「今後すべてのランキング番組の出演を辞退する」と発表。
ようはベストテンやトップテンのような番組にはもう出ない、と。
当時、郷ひろみの音楽プロデューサーだった酒井政利によると、それも「戦略」だったそうだが。他の歌手との差別化をはかるための戦略。
はあ、そすか。
当時のランキング番組なんて歌にランクをつけるためのものというより、レコード売るためのパブリシティ的な意味のほうが大きかったと思うんだがねえ。そんなこたぁわかってて「あえて」そういう戦略をとったってことなんだろうが、それにしても。このひと(このひとのブレーン含む)は歌謡曲というものをどう考えているんだろうと当時思ったものだ。歌謡曲というのは流行音楽・大衆音楽・商業音楽である。広い範囲で、多くの人に売れることを目的としている音楽である。
「多くの人に売る」ということを目的としていない音楽は歌謡曲とは言わない。
ロックが偉くて歌謡曲は偉くないだとか、アーティストは高尚で歌謡曲歌手は低俗だとか、そういう対比は意味が無い。
優劣の問題ではなく、目的が違う。「多くの人に売れたい」か、そうでないか。それだけの問題だ。
謡曲を演っているんだったら、「多くの人に売れる」は最大の目的だから、ランキング番組には出演意義がある。
郷ひろみが「もう売れたくない・売れなくてもいい」と思ってんなら話は別なんだけど。すんげー売れたそうだったからさあ。「何言ってんだかこのひとは」としか思えなかったねえ、当時。
 
 
 
もっとわけわかんなかったのはニューヨーク移住(80年代中盤以降)。
 
松田聖子吉田栄作みたいに「海外でビッグになる」とか「ハリウッドデビューする」みたいな目標も掲げてなかったような気がする。「海外に留学」でもなかったような。「単にアメリカに住みたい」だけだったような気がする。
私が知らないだけで、郷ひろみも何か「アメリカをシメる」みたいなビッグ発言してたのかもしれないけど。
いや、いいんだけど別に。どこに住んでも。
でも現地で飯の種を稼げない人が海外移住してもさあ、と思ったわけよ。
一般人の海外移住と有名人・著名人の海外移住って意味が違うじゃん。
一般人の場合は例外はあれど、一応現地で金を稼ぐことが前提だよね。現地でコーディネーターをやるとか通訳をやるとか商社の海外駐在員とか外資現地採用されるとか。あとは目的がある場合。青年海外協力隊とか留学とか結婚とか。
有名人・著名人の場合は、日本で飯の種を稼ぎつつ、住居だけは海外に構えるという意味不明なのが多い。
著述業やミュージシャンに多いよな。誰とは言わんけど辻仁成とか辻仁成とか辻仁成とか。思いきり言うとるがな。
あと雁屋哲吉本ばなな吉本ばななはまだ海外移住してないけど。何かにつけて「いずれ日本を出て海外で暮らす」「こんな日本はもうダメ」って連呼してっからさ。
いつ出てくの?そう言い続けて長いけど。
 
著述業やミュージシャンの海外移住者は、日本沈没でも起こって「日本というマーケットが消滅」したら真っ先に生活困りそうなひとが多いんで笑える。海外では金稼げないひとばっか。あー吉本ばななは多少稼げてるんだっけか。まだ移住してないけど。
郷ひろみは何か海外で稼ぐネタ持ってたのか?たぶん無かったはず。でもNY移住。意味ねえなあ。いったい何がしたいんだか。
 
でも昭和の時代は誰もおおっぴらに郷ひろみにツッコミ入れなかった気がする。
わたしの周囲だけだったかもしれないけど、皆さん「郷ひろみってステキ!カコイイ!国際人!」みたいな反応だったような。
実際、職場の女性にそう反応されたぞ。それも複数。あんなにツッコミどころ満載なのに誰も突っ込まないという状況は苦痛だったなあ。誰かの信仰をズタズタにする権利はわたしには無いし、下手にツッコミ入れるとその後の人間関係が怖いので「ああそうですよねえ」と無難に相槌を打っていましたが。言いたいことも言えないこんな世の中じゃ。ポイズン。
 
昭和の時代は「みんな郷ひろみに対してはイロイロ思ってたけどとりあえず黙ってた」のかもしれない。
メディアの大本営発表をそのまま受け取るくらい日本の人々はまだスレてなかったのかもしれない。
が、平成に入って世間は郷ひろみにツッコミを入れ始めた。
郷ひろみ”から“郷ひろみ(笑)”になった。
中尊寺ゆつこのマンガにこんな一場面があるが、これなど象徴的だ。


中尊寺ゆつこ「プリンセスin TOKYO」(1989)
 

で、自分でもヤベエと思ったのか、郷ひろみは自分で自分にツッコミを入れ始めた。
 

 
郷ひろみ - アメリカかぶれ (1990)
 
 
水野晴郎ミッキー安川と同じ枠だったのですか。
歌詞はこちらに。
郷ひろみ アメリカかぶれ 歌詞 - 歌ネット
 
いや、秋元康なんですけどね。「アメリカかぶれ」の作詞って。
なんてったってアイドル」と同じ構造。「ギミックをあえて公開」「たしかにそうですがそれが何か?と開き直る」手法。秋元康の得意技。あーあざとい。
あんま売れなかったみたいだけど。
Youtubeで動画探したけど無かったくらいだよ。
郷ひろみの真髄はラテン歌謡なんだから、ラテン歌謡にすればよかったのに。
アメリカかぶれなのにラテン歌謡という意味不明曲でいいじゃんか。
実際、開き直ってからの郷ひろみも、売れた曲はラテン歌謡(GOLDFINGER '99)なんだから。
 
 
 
最近の郷ひろみで興味深いのはサイボーグ化の進行具合だ。
沢田研二とは逆に加齢に逆らって生きることを選択したらしい。
 
どこまで整形か・整形でないかの境界線は実は曖昧だ。歯の矯正は整形に入るのか、ヒアルロン酸注射は整形に入るのか。メスさえ入れなければ整形でないのか。「自然でない」のが整形だとしたらメイクでさえも整形に入る。洗えば元に戻るだけで。
今の郷ひろみの容貌は明らかに「自然でない」。メスは入れてなさそうだが、その加齢への逆らい方にはサイボーグ化の臭いが漂う。
もういいじゃん、フツーに年とれば。と思わなくもないが、なんせ「ザ・芸能人」だから。
「芸能人」としてのプロ意識の塊だから。
どこまで「サイボーグ郷ひろみ」は続くのか、その行く末を見届けたいと思う。
 
沢田研二郷ひろみでえらい扱いが違うな」と郷ひろみファンのひとから怒りのコメントが入りそうだが、個人的にどちらが好きとか嫌いとかの問題じゃないんだよねー。
沢田研二ってツッコミ入れるスキを見せないのよ。あえて入れるなら「太った」ぐらい。
郷ひろみって鉄壁のプロ意識でガチガチに自己管理してるのにやることなすことスキだらけでツッコミどころ満載なの。
ネタとして書き易いのは郷ひろみ
面白いひとだと思うよ。いろんな意味で。
 
 

 

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