前世紀遺跡探訪<80s-バブル終焉>

80年代~バブル文化圏終焉(実質的なバブル崩壊は91年だが、バブルの延長的な空気が即終了したわけではないので90年代前半までとりあえずバブル文化圏と仮定しとく)の音楽や音楽をとりまく事象について、あれこれと。

avex trax - JULIANA'S TOKYO(1992)

ウォーターフロントというバブル用語がある。
バブル崩壊(1991年)前、異常に流行ったのだ、交通の便が悪い湾岸部の開発が。
東京だと佃島・天王洲・お台場・有明・汐留・芝浦あたり。
このへんの地域が「いま新たなトレンディ・スポット」などとメディアに煽られて、トレンディ(ははは)な店がいっぱい出来て、一躍若者のデートスポットになった。
飲食店、レジャースポット、ディスコやクラブ…。
ほんっと、すっげ交通の便が悪いとこばっかなの。電車で行くと最寄り駅から平気で15分は歩かなきゃいけないような。でもバブルだったからねー。「車で行く」ことが前提なわけよ。それも外車でな。
芝浦のウォーターフロントとしての先駆けは大型ライブハウス「インクスティック芝浦ファクトリー」(1986)だろう。大型クラブ「芝浦GOLD」は1989年から。で、大箱ディスコ「ジュリアナ東京」オープンは1991年からである。

よく勘違いされていることだが、ジュリアナはバブルの象徴ではない。
バブルとは1986年12月から1991年2月までの期間を指す。
ジュリアナのオープン期間は1991年5月から1994年8月まで。バブルが崩壊してから始まった店である。ジュリアナはバブルの象徴ではなくバブルのカリカチュアだ。バブルの模倣・ノスタルジーをやってたら、踊ってる本人たちの意図に反してカリカチュアになっちゃったというやつ。
つか、「平成のええじゃないか」って気もするな。江戸末期の「ええじゃないか」も「江戸期のバブル崩壊後の抑圧された世相のガス抜き説」があるそうだから。抑圧されると卑猥な路線で踊り出すのは日本人の習性かもしれん。まあどうでもいいんだが。

そんでこれも誤解があるが最初から過激ボディコン・イケイケ露出・売女系だったわけじゃない。ジュリアナのオープニング・レセプションに行って来た(当時の仕事の関係)んだが、スーツ着たリーマンと普通のOLが名刺交換しながら気の抜けたユーロビートにあわせて一直線に並んで同じ振り付けで踊るという世にもマヌケなバブルをなぞった世界だった。いわばキング&クイーンとかマハラジャとかのNOVA21系列のノリ。
まぁそりゃそーか。出資してたのは日商岩井だし当初のコンセプトは「普通のOLのためのコンサバ・ディスコ」だったから。「敷居が高くて芝浦GOLDに入れない」層を狙ったわけさ。
オープン直後にかけてたのはユーロビートじゃなくてイタロ・ハウス。超ミーハー路線。
扇子を振り回して踊るボディコン女が出てきたのはその1年後ぐらい。テクノの流行以降のこと。 テクノつってもYMOの系列とは別物。いわゆる「ハードコア・テクノ」「デス・テクノ」とか言われてたジャンルのやつですね。あのビキビキうるさいやつ。「ジュリアナ・テクノ」とも呼ばれた。
ボンレスハムみてーなカッコの女子達がジュリ扇ふりまわしてパンツ丸見えでタコ踊り」とメディアで喧伝されてこういう露出系売女ファッションがどんどん地方に広がり、えらいことになっていった。たぶんピークが1992〜93年。1994年にはブームはある程度失速していたから。
 


 
 

で、そのジュリアナ東京のコンピレーション・アルバム作ってたのがエイベックスだった。
 
 

avex trax - JULIANA'S TOKYO(1992)
 
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このCDにジュリアナの入場券が入ってんだよ。
誰が買うんだよと思ってたが、売れたんだな、これが。
世の中には「わたしのあずかり知らない需要と供給がある」ことは理解しているが、これは本当に謎だった。誰が、どういう動機で買っていくのか。

ジュリアナCDよりもっと謎だったのが「SUPER EUROBEAT」シリーズだ。
ユーロビート」というのは現時点で、というか、はっきりいって20年以上にわたって、日本以外では全く売れていないジャンルなのである。イタリアにユーロビート専門のレーベルがあるんだけどね、日本でしかユーロビート売れてないから、日本での需要のためにだけ曲作ってんのマジで。“ユーロ”ビートという名が付いてるのに既にヨーロッパでは誰も聞いてなくて日本人だけ聞いてるっつう、バカみてーな話だけど実話。
この「SUPER EUROBEAT」シリーズ出したのもエイベックスなんだよ。ていうか元々これ出すために創られたレーベルだからね、avex traxって。今時ユーロビート?誰が買ってくんだよと思ってたんだが、買ってくひとがいるんだな、これが。「SUPER EUROBEAT」シリーズってもう200作超えてるらしいよ。200作もCDアルバム出すほどの需要がいったいどこにあるというのか。つか、どれも同じじゃんよう、ユーロビートって。1曲聴きゃあ十分だよ。
エイベックスにおける「需要と供給」の世界は本当にわたしの理解の範疇を超えていることが多い。
が、それが売れてて、支持されているということは、そっちが日本のマジョリティなのだ。
エイベックスの主な購買層って深夜にスウェットやジャージでドンキホーテ行くような人種だと思ってんですがね。まあそれが日本のマジョリティだというわけです。

洋ラン・短ラン・ドカンにボンタン、アフロにパンチにリーゼントという大変わかりやすい「ヤンキー」と呼ばれる外見の人たちはほぼ絶滅しました。が、その感性や精神性を受け継ぐ人々が日本から消えてなくなったわけではありません。呼び名が「DQN」と変わっただけで、相変わらずヤンキーは日本における一大マーケットを形成しているのです。つうか、ヤンキーが日本のマジョリティ。エイベックスがただの貸しレコード屋(前身は「YOU&愛」)からここまでの企業に成り上がったことが何よりの証拠。
エイベックスは、その起業当初から現在に至るまで、一貫して「日本のヤンキーマーケット」だけを相手にしてる企業である。いやマジで。
海外の不良カルチャーやカウンターカルチャーが先鋭的若者文化・風俗として日本に持ち込まれても、ただそれだけでは日本に浸透しない。“メジャーなもの”として一般に認識されるためには、とりあえず一旦「ヤンキーフィルター」なるものを通過しなきゃならないのである。ハウス+テクノに「ヤンキーフィルター」を通過させて広く一般に浸透させたのがエイベックスと小室哲哉
エイベックスの主な仕事は、ハウス、テクノ、ヒップホップ、レゲエ、クラブミュージック全般等の輸入音楽にヤンキーフィルターをかけ、日本に浸透しやすい形に「翻訳」することなのだ。

ていうか、会社の成り立ちからしてヤンキー起源だから、エイベックスって。あー、念のため、伝聞や噂じゃないですよ。全部公式にご本人や会社が公表してること。
社長のMAX松浦氏自体が、自称元暴走族だから。しかもそれを自社のヒストリー書籍で自慢したり、自分の立身出世物語を「ドリームメーカー」(1999)というタイトルで映画化したりという自画自賛ぶり。副社長の千葉氏も元ヤン。このひとも自分の過去を何かにつけてインタビュー等で語っているが、どうしてヤンキーという人種はこんなに武勇伝が好きなのだろう。



あ、そういえば昨日だったか一昨日だったか、ついにエイベックスが「ヤンキーアイドル」を売り出すと発表したそうですね。


ヤンキーアイドルのオーディションをエイベックスが開催! - CDJournal ニュース
 
 
「既成の概念に捉われた正統派アイドルへのアンチテーゼ」だそうですが、元ヤンキーじゃねえアイドル探すほうが難しいだろ。
ヤンキー界とアイドル界は元々親和性が高い。ヤンキー的な精神性や環境が背景にない人はアイドルとして大成しにくい。
自分がヤンキーだとカムアウトしてるかどうかだけの差だ、こんなもん。
エイベックスの繁栄もマジでもうオワリかと思った。このニュース見て。
アイドルというのは、どんなに背景がヤバくても、とりあえず清純派を装うことで成り立つ商売だ。酒井法子みりゃわかるだろ。
幻想を売る商売なんだから。
出発点がヤンキーで、売りもヤンキーだと、幻想を投影する余地がないのだ。
 
 
1994年に、当時名の知れたレディーズの総長を集めて、鬼風刃(きふうじん)というヤンキーアイドルグループが売り出されたことがある。

ビクターが企画して雑誌「ティーンズロード」で集めたのだ。
すぐポシャった。
女子の場合、「まんまヤンキー」は売れない。
バレバレでいいから「清純派」をコーティングしないと受け手側は幻想を投影できない。

エイベックスは出自がヤンキーのくせに、こんな企画出して、もう嗅覚が狂ったとしか思えない。
どうなろうが知ったこっちゃないがさ。
でもこれが当たったらエイベックスの手腕はマジで凄いな。
その時は尊敬させていただきます。いや本当に。
 
 

 

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