前世紀遺跡探訪<80s-バブル終焉>

80年代~バブル文化圏終焉(実質的なバブル崩壊は91年だが、バブルの延長的な空気が即終了したわけではないので90年代前半までとりあえずバブル文化圏と仮定しとく)の音楽や音楽をとりまく事象について、あれこれと。

Duran Duran - RIO (1982)

洋楽である。外タレである。
基本的に邦楽オンリーで行こうと思ってたのだが、ニューロマのことを書いたらデュランデュランのことも書いておきたくなった。
まあいいや、これも当時は一応アイドル枠だから。
 
 
デュランデュランは80年代に日本で女子からアイドル扱いされてた英国のバンドである。あ、いや世界的にも大物バンドですよ?でも80年代前期の日本ではアイドル枠だったんですよ。

結成は1978年。デビューは1981年で、「金と手間を惜しみなくかけて意味無くモデルタイプの美女をはべらした凝ったPV」で人気を博し、MTVブームの火付け役などと言われた。デビュー時のメンバーは5人だが、珍しく5人ともルックスが良かった(普通、最低1人ぐらいはルックス的にキツイのがいる。ボーカル以外全部キツイというケースも多々ある)ので、日本では女子人気が高かった。
 
うん。当時の日本のお嬢さん方はね、みんなイケメンに飢えてたんですよ。
80年代前半は日本芸能界の男性アイドルの顔面偏差値が低く、国産美少年って本田恭章中川勝彦くらいしかいなかったから、国産モノじゃワシの飢えは満たせんのじゃあと外専に走る女子も珍しくなかったんすよ。
今時の若いお嬢さんはいいですねえ国産モノで間に合って。
今の日本の芸能界はイケメン供給過剰じゃないすか。
80年代前期なんかイケメン需要過剰だったのに供給が全然なくて、唯一供給してくれたのが外タレミュージシャンだったのでみんな洋楽に走ったんすよ。
まあそんだけが洋楽に走る理由じゃなかったんですけどね。
当時の日本の音楽業界の流れでは、自分の聴きたい音をメディアや市場が供給してくれないという事情があった。だってロックをやろうとフォークをやろうと演歌をやろうと、全部「歌謡曲」って大きな流れに吸収されちゃうんだもん。たまにマニアックな音源を作るミュージシャンがいても、そういうのはまずメジャーレコード会社からはリリースされないしさ。売れないし、わかりやすくないから受け入れられない。「マニアでありつつポップ」を成立させて、セールス的にもそこそこ受け入れられてたのはYMOとその周辺くらいしかいなかったんじゃないすかね。
 
80年代に外専に走ると大変なんすよ。
当時はネットなんかないから情報入ってこねーし、本国のみでしかリリースされない音源とかもあったし、まず滅多に来日してくんないからライブとか見れないしさあ。音楽雑誌の記事と、深夜TVの洋楽番組と、ラジオのエアチェックだけが情報源。
だから目当てのミュージシャンの情報を得るために、しょーもねーアイドル音楽誌を隅から隅まで読み、エアチェックしたテープを擦り切れるまで聴き、録画したMTVのビデオを擦り切れるまで見て。時折挿入される小林克也マイケル富岡ピーター・バラカンの顔は早送りで飛ばしながら。
あああ、涙ぐましいなあ。
 
 
 
本題のデュランデュランに戻るが。
音楽的には初期はニューロマンティックであった。
結成時のコンセプトが「SexPistols(パンク)とCHIC(ファンク)を融合させたようなバンド」だったはずなのだが。
 
 

SexPistols(パンク)
 
 

CHIC(ファンク)
 
 

初期Duran Duran(ニューロマ)
 
 
えらいこと志と違うなあ。
パンク+ファンクが、いかなる化学反応でニューロマになってしまったのか。
いろいろ大人の事情があったのだろうが、ショッパイです。
 
 
 
まあでもニューロマだったのは初期だけで、音楽的にはどんどんエレポップ→オルタナティヴ・ロック路線になっていくんですよ。80年代中盤にはプロデューサーにナイル・ロジャースを迎え、ファンク色も強くなっていった。
メンバーの服装もニューロマから離れ、化粧もしなくなった。
…ただ1人を除いては。
 
デュランデュランの他のメンバーがどうであろうとニューロマが廃れようと、ただ1人、頑なに厚化粧を貫いた男がいる。
ずっとずっと貫き続け、オッサンとなった現在も厚化粧続行中。
どんだけ好きなんだ厚化粧が。
その名は「ニック・ローズ」。
デュランデュランのキーボード兼バンドの影の大番長である。
 

 
80年代のデュランデュランと言ったら、女子人気はベーシストのジョン・テイラーに集中。
「ニックはまあ美形は美形だが、いまいち印象が薄い存在」程度だったと記憶している。
が、私はデュランデュランでは最初から最後まで徹頭徹尾ニック・ローズしか見てなかった。
美形だからではない。
ニックが変な男だからである。
変な男すぎて目が離せないのだ。
「ニック様、きゃあ」とか「ニック様、お美しい」という視点から彼を見たことは一度も無い。
ニックファン(いるのか)のトウの立った女子の皆さんには大変申し訳ないが。
 
積極的にデュランデュランの売上に貢献したことは殆どないのでファンとはいえないかもしれないが、「ニックの動向」だけは今でも時折チェックしている。
ニックのために今回この記事を書いたと言っても過言ではない。

  
ニックは顔の造りは美しい。
が、いつもとんでもなく厚化粧をしている。原型が分からぬほどに塗り捲ってる。塗ってないニックを私は見たことが無い。塗ってないと不安なのか。007の主題歌「A View To A Kill」という曲のPVで、ニックは「カメラマンに扮してモデルを撮影する」という役どころを担当していたのだが。カメラマンのニックさん、ポーズするモデルに向かって「Great!」などと如何にもなことほざいてるが、Greatじゃねえだろモデルよりオマエが厚塗りしてどーするよ、という状態で、涙流して腹抱えながらPVを見た。
 
あと、このひと顔が大きい。
80年代に「8ビートギャグ」ってマンガがあって。
実在する洋楽ミュージシャンをパロったマンガで、そこで「大顔トリオ」と揶揄されてたミュージシャン(ボーイ・ジョージ、マイケル・モンロー、マーティン・フライ)より、むしろニックのほうがヤバイのではないかと常々思ってた。
白人にあるまじき足の短さと、ケツのでかさ。身長のわりに顔がでかくて、なんかさ。ロングショットになるとキツイ人なの。
アップはアップで厚化粧でキツイけど。
 


あと、ものすっごく強烈にニックに対して疑念を抱いてるんだけど、言っていいかしら。
いえね、「なんかコイツ運動神経悪くね?」ってことなんですが。
 

Duran Duran - RIO (1982)
 
 
このPV開始から3分あたりの箇所で、海上でサックス吹きながらヨタってるのがニックです。
 
 
サックスの重さがどのくらいなのかはよくわからない。
サックスって一口に言ってもテナーとかアルトとか種類によって重量も違うんだろうし。
海上なので足場も悪かったことだろう。
でもさ、これはもう普通「撮り直し」のレベルだと思うんだよ。
金はあるんだから幾らでも撮り直し可能じゃん。
でも、もしかして「何度もトライして、これが一番マトモに撮れた映像」だったとしたら。
このひと、ヨタって何度かは海にドブンしてそうだな。いや、絶対してる。
つか、サックスとかトランペットとかがこれほど似合わないひとも珍しい。
そもそもやらすなよコイツに。こんなシーンを。
 
いや、私だって最初からニック・ローズをツッコミ対象だと思ってたわけじゃなくて。
だって外タレだし。
80年代は異常に外タレの価値が高かったから、とりあえず外タレは「へへえ」と有難がらなきゃいけなかったし。
「外タレ=かっこいい」という共通認識があったもんで。
でも、こんな面白いもん見せられちゃあさ。ツッコミ解禁したくもなるわな。
昭和のイナカモンには「外タレだしミュージシャンだし、運動神経悪いわけない」って、強固な思い込みがあったのですが。
ニック・ローズさんのおかげで美形白人とミュージシャンに対する万能幻想から目が覚めました。
どうもありがとう。
 
あっ、わたしが他に「コイツ実は運動神経悪くね?」と勝手に思ってるミュージシャンは坂本龍一小室哲哉大槻ケンヂです。
皆さん総じて「動きがぎこちなくて肩に力が入ってる」ので。
 
 
 
ひどいこと書き過ぎたので褒めとくと。
ニックの面白いとこはルックスや行動面でツッコミどころ満載なのに、サウンド面ではデュランデュランを影から牛耳ってたことですかね。「運動神経悪そう」とか「顔がでかくてバランス悪くて厚化粧な男」だけだと、私にとってここまで面白い存在にはならない。
サウンド面でもキーボードを2本指で弾いていたとか、ツッコミどころ皆無じゃないんですが。
でもこのひとすんごい音楽的センスがあるんで。特にアレンジの。サンプリングのループとか、リズムとボーカルをズラして曲作ったり、斬新で先鋭的なこといっぱいやってんのね。でも、一貫してポップ。アヴァンギャルドなことやってんのにアヴァンギャルドになりすぎないで、きちんとポップの枠に収めてる。これは凄いことだと素直に思う。
 
 
 
 
 
 
 
80年代は「洋楽」は若者にとって、かくも身近な存在だった。
コアなロックマニアでなくても、「好きな洋楽は?」と尋ねられたらペラペラと海外ミュージシャンの名前が幾つか出てくるのは普通のことだった。なんせわたしがこんだけ語れるくらいだから。

「洋楽ファン」という勢力が衰退していったのはおそらく88年頃から。
バンドブームが起こり、「ロック」が国産モノで間に合うようになったんで、若い子が洋楽聴かなくなったんですね。
おそらく私より4,5歳年下の世代あたりの、
バンドブームの時、高校生だった人たちあたりから「洋楽」を聴く人の割合が激減する。
あの「8ビートギャグ」でも、バンドブーム頃から邦楽V系ミュージシャンのネタしか扱わなくなったことなどは、「日本における洋楽衰退」の象徴的現象だと思う。
 
 
いま洋楽聴いてんのはかなりの音楽マニアか、1960年代生まれと、それより以前の世代の人達でしょう。
で、1960年代生まれとそれ以前の世代が聴く洋楽ってのは、基本的に自分が青春時代に流行ってたもんに限られる。
メイクと一緒でね。
なぜか自分の全盛期で洋楽も止まってる。
時代に合わせて更新しねえんだよ。
1960年代生まれの殆どは洋楽つっても80sしか聴かないね。
 
  
国産モノで間に合うっていうのは幸運なことでもあるんですよ。
それだけ日本の市場が広がった、リスナーの許容範囲が広がったってことだから。
ただ、ロックやポップスやR&Bやヒップホップやジャズというもののルーツが海外にある限り、音楽をやるなら・ミュージシャンを目指すなら洋楽の音源も聴いといたほうがいいと思うのは大きなお世話ですかね。
今時の若いミュージシャンに「影響を受けたアーティストは?」って訊くと国産アーティストの名前が出てきて、洋楽が皆無ってことも珍しくないんで。
いや、まあ、大きなお世話か。

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